91号の特集テーマは林 揚春先生(東京都)による「垂直骨量1〜2mmのグラフトレス サイナスリフト –意図的穿孔による上顎洞底挙上–」です。
意図的穿孔と聞くと、上顎洞底粘膜を破ってインプラントを埋入するというイメージを抱く読者も多いかも知れませんが、決してそうではありません。上顎洞粘膜を傷つけずに挙上できることが前提であることには変わりありません。この術式のポイントは2つです。まず、上顎洞底粘膜が破れたとしても、それが原因で副鼻腔炎を引き起こすというエビデンスはないこと、骨補填材の使用が副鼻腔炎を引き起こすリスクを高めているということです。
これらの根拠に基づいて、これまでの少ない垂直骨量への上顎洞底挙上術を検証すると、多くのリスクが存在していることがわかります。また、洞粘膜が破れても副鼻腔炎を引き起こす原因にはならないとはいいましたが、やはり許容できる程度はあります。そこに従来のように骨補填材が填入されると洞粘膜裂開部から骨補填材が上顎洞内に漏出する危険性も伴い、副鼻腔炎を引き起こすリスクはかなり高くなります。
ここでいう意図的穿孔とは、基本的に上顎洞底骨が対象で、それによって洞底粘膜に小さな穴が開いたとしても、その小さな穴のサイズをできるだけ維持しながら残存骨ごと洞底部を必要最小限に挙上し、ワイドショートインプラントを埋入して上顎洞内への侵入量を抑え、上顎洞と口腔内の交通を遮断することで穿孔した洞粘膜は早期に治癒すると考えられます。術式を複雑にして洞粘膜に大きな裂開を生じさせてしまうくらいなら、シンプルな術式で洞粘膜のダメージを最小限に抑えて治癒を早めるという考え方です。骨補填材は使用しないので洞粘膜の治癒を妨げる要素もありません。ただし、術式の基幹となる多くのエビデンスについては正しく理解しておく必要がありますので、内容をしっかりと読み込んでいただくことをお願いしたいと思います。本文中ではイラストも多用して解説しています。